黒い影
作/苫澤正樹 

※今回の話には、一部残虐描写・流血描写が存在します。苦手な方はその点を留意なさった上で閲覧されるか、閲覧をお控え下さいませ。

「え、曳(えい)っ!」
 名雪の戸惑うようなかけ声が響くとともに、その手の中の木刀が風を切る音が聞こえる。
 そしてどすうん、と大きな音が響くのと同時に、
「……名雪、剣先がぶれすぎてる。剣道でいうなら面を打ったのに二の腕を打ったくらいのずれ幅」
 舞の鋭い指摘の声が飛ぶ。
「そ、そう言いますけど、川澄先輩……この木刀、重くて」
「……実際の剣はもっと重い。鋼の塊だから」
 けんもほろろな舞の言葉に、木刀を手に困ったような顔をする名雪を見て、
「おい舞、さすがにあれだけの素振りで、実際の訓練始めるのは早くないか?」
 舞のすぐ横で素振りをしていた祐一が、横合いから助け船を出した。
「……名雪は運動部だし、筋も悪くはないから大丈夫かと思ったんだけど」
「陸上と剣術じゃ使う筋肉が違うぜ。まあ、瞬発力や持久力は舞並にすごいけどな、あいつ」
 祐一の言葉に、舞はしばらく額に手を当てていたが、
「……祐一の言うのも一利ある。名雪、一旦休みにして素振りからやり直しに」
 木刀を所在なげに持っていた名雪にそう声をかけた。
「わかりました……」
 息を上げながら近くの縁台に座りこむ名雪を見ながら、祐一は、
「しかしやっぱり出て来てるな、実力差が」
 素振りの手を休めて言う。
「……確かに。予想はしてたけど、ここまでばらばらだとどこまでレベルを上げていいか難しい」
「だろうな」
 校舎での「魔物」との最終決戦――正確には違ったのだが――が終わり、卒業式が終わって二日。
 祐一たちは、頭数が揃い始めたことから殺生石破壊のための訓練を開始した。
 もっとも彼らに出来ることは物理破壊だけなので、剣術の鍛錬が主だ。
 それも本物の鋼で出来た神剣を得物とするので、かなりの実力が必要になる。
 それをにわかに身につけさせようというのだから、無理は承知だったのだが……。
「ここまでばらつくとは……」
 このことである。
 当初の舞の予想では、普段鍛えている浦藻は全く問題なし、共闘したことのある祐一はほぼ問題なし、佐祐理やあゆはあの日戦っているから鍛錬次第の状態、名雪は運動には慣れているからすぐに身につく状態、後は全然経験のない真琴・美汐・秋子くらいが問題になりそう、というところであった。
 だが蓋を開けてみると、予想が当たったのは浦藻と祐一だけで、佐祐理はあの日の戦いで夢中になっていて肩を痛めたためあまり訓練させられず、あゆは霊体なので素振り自体は何度でも平気だが全くのノー・コントロール、名雪も膂力はあるが力の入れ方がなかなかつかめず苦闘と、問題が山積みの状態だったのである。
「まいったな……これじゃ、まともに攻撃することなんて出来ないんじゃないか?佐祐理さんだけじゃなくて、みんな無理はさせられないだろ」
「……せめて攻撃の仕方さえ分かれば、それに合わせてその方法に特化した鍛錬が出来るんだけど。そうじゃない以上、全部の鍛錬を受けてもらうしかない」
「結局そこが一番の問題だよな……浦藻さんが分からないという代物が、俺たちに分かるわけもなし」
 今まで事件の連続で忘れかけていたが、実は人が揃っただけで肝心の殺生石の破壊法が分かっていない。
 単純に考えれば、今名雪がやっていたように上からたたっ斬るのだろうが、洞窟の中から外に蟠踞するかつての手先を操るだけの力を持つ岩である。ぶった斬るにも物理的に斬るだけでなく、呪術的な斬り方が必要になることは充分に考えられる。
 そう考えると、固くつき固めた土まんじゅうを上から打突しているだけの今の鍛錬はもどかしい限りだ。
「……困った。まだ調べはついていないの」
「ああ……何でも浦藻さんたちの側で問題があるらしくてな、そこがどうにかならないといかんらしい」
「……問題?何?」
「まだ訊いてないよ。……というより、あんな兄妹揃って様子がおかしいんじゃ、訊くに訊けないぜ」
 浦藻と真琴の妖狐兄妹は、今ここにはいない。
 実はこのところ、二人は折を見て奥に引っ込んでいることが多くなった。
 殺生石の破壊方法について調べているらしいが、それにしてはあまりにも時間がかかりすぎているし、何より、
「そろって精神状態が不安定になっている……」
 のが気にかかる。
 浦藻は生気を吸い取られたように顔色を悪くしているし、逆に真琴は顔を真っ赤にして激怒していたりいらついたりしているのが目撃されている。
 と、その時だ。
 噂をすれば影、と言うべきであろうか、
「ちょ、ちょっと待ってくれないか……」
「待ちなさいよぅっ!みんなに何かしたら許さないんだからね!」
 神籬(ひもろぎ)の奥から追いすがるような浦藻の声と、怒りを露わにした真琴の声が聞こえて来た。
 そしてその声をかき消すようにずかずかと土を踏みしめる足音が闇の中から響いてきたかと思うと、見覚えのない妖狐の青年が一人、姿を見せたものである。


「ふん……」
 神籬を追い越して社務所前の広場に入って来た青年は、みなの視線が一斉に自分に集まったのにも臆することなく、鼻でそう嗤うと、
「何ですか、ほとんど女ばかりじゃないですか。しかも刀なんか振ったこともなさそうな……とんだハレムだ」
 吐き捨てるように言った。
「あんたねえっ……!」
 仲間を侮辱する発言に真琴が頭から湯気を立てんばかりに激昂するのを抑えつつ、浦藻が、
「いくら慎司君でもそれは聞き逃せないな。女性ばかりなのはただの偶然だ、別に狙って集まってもらったわけじゃない」
 さすがにむっとした顔で「慎司」と呼ばれた青年に抗議する。
 しかし慎司は、
「おや、俺は女ばかりだってこと自体をどうこう言いたいんじゃないんですがね。不慣れで非力なのがあつまったとこで烏合の衆にしかならんでしょう、と言いたいんですよ」
 にやにやしながらそれを受け流す。
「ふざけんじゃないわよぅっ、遠回しなだけで充分女性差別じゃないの!」
「そう聞こえたなら申しわけないですね。でも、非力なのは否定出来ますまい?」
「そりゃそうだけど……だからあんたに協力頼んでるんでしょうが!」
「何度も言ったように嫌なものは嫌です。ましてこんな状況じゃ手を貸したって無駄だ」
 食ってかかる真琴をのらりくらりとかわしながら、慎司は冷たく言い放つ。
「お願いだ、慎司君……確かに君の言う通り、みんな戦いに慣れてはいない。でも君が力を貸してくれなければ、非力のままなのも事実なんだ。ここは令さんのかたきを取ると思って……」
 そう浦藻が言った瞬間、慎司の顔に怒りの色が上った。
 そして悪鬼羅刹のごとき形相で、
「……だったらこんなことしてないで、まずあんたが死んでわびるのが筋だろうが」
 浦藻をすさまじい眼で睨(ね)めつけながら、どすの利いた声でそう言ったものである。
「………!慎司!あんた、仮にも族長に対して何てこと言うのよぅっ!!」
 あまりの発言に怒りの頂点に達し、もはやつかみかからんばかりの剣幕で怒鳴り散らす真琴を、浦藻は手で制して、
「真琴、落ち着きなさい。……慎司君、今のは余計だった、申しわけない。だが分かってくれ、君がいないと事態は何も進まないってことを……」
 蒼ざめた顔でそう言って慎司を落ち着かせようとする。
 だが慎司はそれに対し、
「……はっ」
 小馬鹿にしたような声を投げかけると、そのまま二人を無視して神籬の奥へ引っ込んでしまった。
「待ちなさいよぅ、この逆恨み野郎ーっ!!」
 その背(そびら)に向かって真琴がのども張り裂けよと叫ぶが、当の本人は振り向くこともない。
 その姿になおも追いかけようとする真琴を、浦藻は着物の袖を引っ張って止める。
「真琴、よしなさい。怒らせるようなことを言った私が悪いんだ。それに……」
「確かに余計なことは言ったかも知れないけど、逆恨みは逆恨みじゃないのよぅ!あの一件はお兄ちゃんが全面的に悪いわけじゃないじゃない!」
「いや、それは違う。族長である以上、ああいうミスをしたのだから私の責任だよ」
「……お兄ちゃんは変なところで責任感強すぎなんだよぅっ」
 今度は兄妹で言い争いになりかけているのを見て、
「あの……浦藻さんに真琴、ちょっといいですか?」
 それまでぽかんとして事態を見守っていた祐一が、ようやく立ち直って声をかけて来た。
「あっ、え、申しわけありません、お見苦しいところを」
「あぅーっ……」
「まあ、それは別にいいですけど……何の騒ぎですか。いきなり知らないやつに暴言吐かれたと思ったら、今度は浦藻さんたちが何やかやと兄妹げんか状態になって」
 先ほどの慎司の言葉を思い出したのか、むすっとして祐一が訊ねると、浦藻は、
「いや、本当に申しわけありません。実はこれが『私たち側の問題』なんです。……事情をお話ししますので、みなさんを集めていただけますか」
 困り果てたようにそう言った。
 さて……。
「もう大体お察しとは思いますが、あの彼が、我々三人だけ残った妖狐の三人目です」
 全員がめいめい広場の中の縁台に腰をかけたのを見届けて、浦藻は神籬の前に用意された縁台に座りながらそう口を切った。
「三人目……?妖狐って、真琴と浦藻さんの二人だけだったんじゃ?」
「水瀬先輩、初めてここに来た時に、浦藻さんが『三人』と言ってましたよ」
「そうなの?美汐ちゃんはよく憶えてるね……」
「まあ、しかたないさ……俺だって、あいつを見て『そういや三人目いたな』と思ったくらいだし」
「佐祐理たちは何人いるのかすら知らないんですけど……ねえ、舞?」
「……うん」
 浦藻の言葉に一同がそれぞれの反応を返す中、秋子は難しい顔をして黙り込んでいる。
 妖狐とのつき合いが長い彼女のこと、今度のことの背景もよく知っているのだろう。
「まあまあ、お静かに。今までお引き合わせして来なかったんですから、驚くのもしかたありませんが……」
 そう言って一同を静めると、浦藻は話を再開する。
「彼は
橘樹慎司(たちばなしんじ)君といいまして、世襲で神職の補佐役を務めている家の人です」
「補佐役って……何をするんです?世襲ってんだから、かなり重い役目なんですよね?」
「ええ……。そうですね、天野さんがいらっしゃるからずばり言いますが、慎司君は貞人(ていじん)です」
「……って、美汐ちゃん、分かる?」
 浦藻直々の指名に、名雪が美汐に水を向けると、美汐は、
「もしかして……中国の殷の時代に宮廷内で占いをやっていた、あの貞人のことでしょうか」
 眉間に人差し指を当てながら答えてみせる。
「やはりご存知でしたか……そうです、その貞人です」
「なあ美汐、その貞人って……」
 祐一がそう訊ねると、美汐は、
「祐一さんの学年なら歴史で既にやっているとは思うんですが、大昔は祭政一致で、占いで政治をしてましたよね。その中で特に有名なのが、中国最古の王朝・殷で行われていた、亀甲や獣の骨を火で焼き、入ったひびから結果を読むというものです。実はその亀甲や獣骨には占う内容や結果の記録が文字で書かれているんですが、その時に必ず『貞人』という役職の人物が占いの実行者として出て来るんです。当時の政治体制から考えるに、王室お抱えの占い師だろう、と結論づけられていまして」
 すらすらと説明を返して来た。
「……ってことは、ここじゃ亀の甲羅あぶって、入った模様から占いやるわけですか」
「そういうことです。日本では亀甲・獣骨による卜占ははるか昔になくなりましたが、うちでは重要な神事として残っていまして。神職の命に関わるほど危険な魔物の討伐などの際、最適な討伐日やそれまでに起こり得る変事などを占うのが役割です。この結果は神意なので、よほどのことがないと破ることは許されません」
「……浦藻さんじゃ出来ないんですか?族長なのに」
「出来るならあんな追い回しはしませんよ……亀甲獣骨による卜占法は橘樹家の秘法でして、族長ですら触れてはならないのです」
「なるほどなあ……」
 こめかみに指を押しつけて前屈みになり、困ったように膝にひじを突く祐一に、浦藻はさらに説明を続ける。
「あと、正直情けない話なのですが……殺生石の一件があって以降、我が天野家は妖力がひどく落ちてしまいまして。他に神職相当の氏族がいないこともあって、彼の家に補助役をやってもらっているんです。特にこの百年近くはおんぶにだっこ状態になっているんですよ……いや、本当に情けない」
「まあ状況が状況ですし、助け合いも必要じゃないですか。……で、そんなに大切な補佐役のはずの人間が、自分の一族が外に出られるかどうかが賭かっている状態だってのに、ああかたくなに協力を拒むんです」
 恥じ入る浦藻を祐一は取りなすと、一番の問題について訊ねた。
 すると浦藻は苦渋の面持ちとなり、
「ええ……実は慎司君は、
人化して天野さんのところにお世話になっていた、令さんに恋をしていたんです」
 歯のすき間から絞り出すように言った。
「ええっ……あの子に、恋を……」
 浦藻の言葉に、瞠目して美汐が言う。
「じゃあもしかして、真琴が言ってた『逆恨み』というのもそれ関係……」
 その言葉に、浦藻は重々しくうなずくと、ぽつりぽつりと事情を語り始めた。
「……元々ですね、令さんの藤森家と、慎司君の橘樹家にはつながりはなかったんですよ。幼なじみというわけでもなかったし……」
 それが接点を持つきっかけとなったのが、橘樹家の横に藤森家が引っ越して来たことだという。
「それだけならまあ、よくある話ですが……この場合、令さんが普通の状態ではなくて」
「………?病気か何かですか」
「半分くらい当たりというところでしょうか。実はですね、令さんは生まれつき妖力が全然なかったんです」
「えっ……妖力があるから『妖狐』なんじゃ?」
「そう思いますでしょう?でもどういうわけか、百年に一度くらいそういう子供が生まれるという現象があるみたいで。きっと遺伝的に何かあるんでしょうけども、私にはそこまでは……」
 さらに悪かったのが、藤森家が「元天野家の分家」ということを異常に誇りにしていて、平の妖狐になっても家柄や家名にこだわる守旧的な家であったということである。
 そのこだわりぶりは異常なものであったらしく、
いつも冷静な語り口の浦藻が、
「そりゃ確かに私の家の分家なんですがね……分家したのがいつだと思います?鎌倉時代ですよ、鎌倉時代。さらに分家の直系ならまだ分かるにしても、傍系の傍系ですからね。こんなんじゃ家柄にこだわったって何にもならないじゃあないですか。私のところだって、家を護る意識はありますが、家柄だの何だのつまらないプライドはなしにしているのに……」
 脱線してかなりきつい口調で糺弾したほどである。
「まあ、そんな家ですから、自分のところに妖力のない子供が生まれたとなれば恥、と考えたようで……家の離れに彼女を押し込めていたらしいんです」
 しかし、そこに思わぬところから救いの手が伸びて来た。
 それが、橘樹慎司その人だったのである。
「聞いた話では、令さんのいた離れが偶然慎司君の家の庭に近い場所にあって、窓を開けばすぐに慎司君の家の庭、という状態だったようです」
 藤森一家が引っ越して来てからすぐの頃、隣家の離れからしょっちゅうすすり泣きが聞こえるのに気づいた慎司は、よからぬものを感じて藤森家の家人が出払った日に思い切って嗚咽の聞こえる窓をたたいた。
 最初は反応がなかったそうだが、「橘樹」の名を聞いた直後に窓が開き、眼を真っ赤に泣き腫らした令が現れた。
 あまりのことに事情を訊ねると、彼女は大泣きして慎司にすがりつき、自分の生い立ちを洗いざらい話したという。
 生まれつき硬骨漢の慎司はその虐待というべき行為に慷慨をおぼえたものの、だからといってどうすることも出来ない。
 洞穴の外の社会ですら、児童相談所というれっきとした役所が出張っても虐待が防げないことも多いのに、そんな仕組みのない妖狐社会で一個人がそれを食い止めるのは不可能に近かった。
 結局彼に出来ることは、藤森の家人に見つからないように、ちょくちょく彼女の話し相手になってやることくらいであった。
 それが出来たのは、食事を持って来る以外はほったらかしの状態で、家人も橘樹家側から遠いところで寝起きしていたのが幸いしたようだ、と浦藻は語る。
「半年ほどでしたでしょうか、慎司君は根気よく令さんの悩みを聞いてあげていたそうです。そうしているうちに……」
「好きになった、というわけですか」
「ええ……慎司君の片想い、ではありましたが」
 だが慎司の想いとは裏腹に、令は慎司に恋愛感情を見せることはなかった。
 自分に妖力がないことをたねに虐待されて来たために、自己嫌悪と自己過小評価が身に染みついてしまい、
「私は生まれて来てはいけない役立たずなんだ、さっさと消えてしまいたい」
 そこまで思いつめていたので、恋愛など夢のまた夢、というのが正直な気持ちだったのである。
 慎司もそのような考えは捨てるように散々言ったのであるが、結局彼女の心に届くことはなかった。
「しかし……そんな状況なのに、当の族長は何をしていたんです?妖狐社会での最高指導者じゃないですか」
「う……それなんですが、正直身内の恥をお話しすることになります。父・葭藻(よしも)は、この……息子の私から見てもあまり指導者向きとは言い難い人物でして。学や祭祀関連の能力はあったんですが一族の統治は穴だらけ、藤森家の問題なんか『族長だからとて他人の家に口を出すわけにはいかない』と体よく逃げるありさまですよ」
「あー……失礼ですが、そりゃ典型的な駄目首長ですねえ。その辺の市町村長、いや首相や大臣にありがちなタイプだ」
「確かに。私もおつき合いしていて何度も苦言を呈したんですが……全然でしたねえ。浦藻さんが隔世遺伝でお祖父さまに似てよかったと思いますよ」
 と、これは秋子。めったに批判など口にしない秋子にここまで言わせるのだから、よほど能のない人物だったのだろう。

 それはともかく……。
 慎司の想いは、結果的に令が払拭出来なかった劣等感によって無惨に散ることになる。
 その発端(はじまり)となったのが、狐になって丘の上に遊びに行った際、そこで一人泣いていた少女――美汐に出会ったことであった。
 当時小学生だった美汐は、みんなと趣味が違うために友達が出来ず、いじめの対象となっていた。
 そのために学校の帰り、必ずこのものみの丘の頂上に座り込んで、丘の草原を眺めるのが日課となっていたのである。
 特にこの時は、両親が学校の無為無策に対し抗議したにもかかわらず校長以下ほとんどの教員が「いじめ」と聞いて逃げ腰となり、まったく解決にも何もならず膠着状態になっていたため、「何もかも忘れたい」と思っていたので余計であった。
「……この、何とも頭が痛くてしょうがない。浦藻さんのお父さんも、美汐の学校の教師も」
 その話に、思わず舞がもどかしそうに頭を抱える。
 彼女の半生が針のむしろであったことは
「暗夜の月」で既に話したが、その過酷な生活が彼女の人としての尊厳を蹂躙する人間と、それを放置する人間によって引き起こされたことを思えば、この発言も当然のことであろう。
「分かっていただけますか……。周囲がそんな状況ですからもう一家そろって嫌になってしまいまして、両親も夕暮れまでに帰ることを条件に寄り道を黙認してくれていたんですよ。どのみち、うちから徒歩でも十分の距離ですから。それでいつも通り座り込んでいたところに現れたのが、あの子だったんです」
後から分かったことであるが、この日令はかけ蒲団と敷き蒲団の間に座蒲団を詰めこんで寝ているように見せかけ、慎司にも話すことなく狐に化けてこっそり外へ出ていたのである。
「私は動物が好きですから……野生の子だと分かっていても、ついつい話しかけずにはいられなくて。また人なつこい子でしたから」
 それ以来、美汐と令は種族を超えた交誼を結ぶことになった。
 そうしているうちに、令の中である感情が芽生え始めた。それが、
「どうせ役に立たないのなら、せめてあの子――美汐ちゃんのために役に立ちたい」
 このことであった。
 だがそれを成し遂げるには、今のままでは出来ない。妖狐にとって死を意味する禁術・人化の術で人化しなければ出来ないことだ。
 それはすなわち、「藤森令」という少女の存在の消滅を意味するのである。
 慎司にそんなことを言えば、猛反対されるに決まっている。だから彼女はその思いを胸の奥に一旦押し込み、機会をうかがうことにした。
 令の両親が他界し、続いて葭藻が他界したのは、ちょうどその時である。
 これが好機となった。葬儀が重なって一族全体がどたばたしていてどさくさまぎれにことをなすには格好の機会であったし、急遽葭藻の後釜にすえられた浦藻は父親の葬儀と族長業務引継が重なって滅茶苦茶の状態で、社務所は無施錠、中はメモ書きから重要書類まで獺祭(だっさい)状態という無防備さであった。
 これを見ていた令が、こっそり人化の術が書かれた禁書を盗み出したのである。
 一方、そんなこととはつゆ知らぬ慎司は、一人になってしまった令に「自分の家で暮らさないか」と声をかけた。
 やましい気持ちがあってのことではない。純粋に、行き場所のなくなった彼女を救いたいという思いからであった。
 その言葉に、令は応じた。そして、
「とりあえず荷物は後にして、身だけでもうちに移したらいいよ」
 そう言う慎司の言葉に従って、家にやって来たのである。
 葬儀が相次いでいるのに不謹慎なほど舞い上がる慎司をよそに、彼女はその日、人化を実行することに決めていた。
 それでありながら慎司の申し出を受けたのは、優しくしてくれた慎司へのせめてもの恩返しのつもりだったのであろうか……。
 そして草木も眠る丑三つ時、令はこっそりと橘樹家を抜け出し、神籬の前であらかじめ用意してあった祝詞と祭具をもって人化の術を実行したのである。
 が、こんな大きな術を使って気づかれないわけがない。すぐに浦藻が飛んで来て人化の術を破るための術を実行したのだが、
「もはや『賽は投げられた』としか言えないほど術が進行していて、止められなかったんです」
 というのである。
 置き手紙に気づいて慎司も駆けつけて来たが、手が出せる状態ではない。
 結局、令は術の作用により洞穴の外へ飛ばされ、その場からかき消すように姿を消した。
 その時、完全に洞穴の中の時間が止まった。
 全員が呆然と立ちつくす中、それを破ったのが慎司のすさまじい慟哭だった。
 しかし愛する人を失った慎司の悲しみは、次第にそれを許してしまった浦藻への怒りに変わった。
「あんたのせいだ……あんたが、あんたが葬式を言いわけにあんな危ないものを手の届くところに置いておくから……っ!!」
 そうのどの奥から絞り出すように言ったかと思うと、
「責任取りやがれ、この野郎!!」
 拳で浦藻の横っ面を殴りつけたものである。
 その後、秋子が止めに入るまで、慎司は馬乗りになって
浦藻を殴り続けた。
 それ以来、慎司は浦藻を、
「一族の心も知らず、危機すら守れなかった馬鹿族長」
 として憎み続けているのである。
 その恨みを解こうと浦藻たちもずっと努力を続けているのだが全くのすれ違い、世話役的存在の秋子も令と顔を合わせたことがない以上うかつな口出しが出来ず、膠着状態のまま今まで来てしまったのだという。
「なるほど、ねえ……」
 一通り話を聞き終えた祐一は、難しい顔つきで唇を噛んだ。
「正直、どうなんでしょうね。あの慎司ってやつの気持ちもよく分かりますけど、当時浦藻さんはどたばた状態で急に族長やれと言われたわけでしょう?しかも葬式二つ重なって……。普通葬式二つ、ってだけでもパニックになるのに、いわんや、と俺は思いますがね。まあ不用心がことを招いたといえばそれまでですが……」
「いえ、パニックはこの際理由になりませんよ。妖狐が殺生石の呪いで寿命が短いのは分かっているんですから、いつ父が倒れてもいいように、私の方で覚悟を決めておくべきだったんです。ましてや引き継いだ文書類を出しっぱなしにするなど言語道断、恨まれて当然ですよ」
「だから、お兄ちゃんは必要以上に責任感じすぎなのよぅっ!あたしも祐一の言うことの方が自然だと思うし……第一、それだからって今日みたいに暴言吐かれるいわれないじゃない。もはや坊主憎けりゃ何とやら、逆恨みの領域よぅ」
 困ったように盆の窪をかきながらことを分析する祐一、言いわけはしないと冷静に語る浦藻、そしてそれを打ち消そうと反駁する真琴。
 また兄妹で言い争いになりかねない雰囲気であったが、そこに秋子が割って入り、
「待ってください、浦藻さんに真琴。ここで誰が悪いかれが悪い、正当な怒りだ逆恨みだ言っていてもしかたないですよ。とりあえず今は、慎司さんの説得とここにいるみなさんの鍛錬を優先しないと……」
 状況を本来のところまで引き戻した。
「あ、も、申しわけありません。ただ事情をお話しするつもりが……」
 あわてて頭を下げる浦藻に、祐一は、
「いや、しょうがないですよ……デリケートな問題ですからね。それにしても……」
 そう言いさすと、いっそう険しい顔となり、
「いろいろ病んでいますね……外の世界と同じく」
 ため息とともにそう言う。
「まあ、確かに……でも、どんな共同体だって、六百年も閉じこめられていればおかしくもなろうもんですよ」
 伏し目がちにそう答える浦藻に、祐一は黙ってうなずくしかなかった。
 そして、話が途切れたのを見計らって、舞が、
「……じゃあ、鍛錬の再開を」
 そう言うのに合わせ、全員が立ち上がった時だ。
「ぎゃあっ……」
 いきなり、真琴の魂消(たまぎ)るような叫び声が響いた。
 尋常ならざる声に全員が一斉に振り向くと、何と真琴が額から血を流していた。
「ううっ、はあっ、はあっ……」
「ま、真琴!ご、ごめんね、ま、まさかぶつかるなんて思わなかったから……」
 流血しながら息を荒くする真琴の横で、名雪が大あわてで止血をしている。
「どうしたんだ、名雪!」
「そ、それが……わたし、木刀を上向きに立てかけていたんだけど、立ち上がる時にそのまま上向きで持って立っちゃって……それが偶然真琴の額に……」
「何やってんだよ……浦藻さん、血は止まりそうですか?」
「まいりました……ある程度までは止まると思うんですが、額が割れているようなので病院に行かないとまずいかも知れません」
「びょ、病院ですか……でも、どうやって?」
「狐になって出るより、しょうがないと思う……あ痛たた」
「真琴、けが人なんだからしゃべるな。……秋子さん、動物病院なんかありましたっけ、この辺?」
「ええと、一回予防接種でぴろちゃんを連れて行った病院が陣屋町の電停近くに……あそこ、確か犬猫以外も診てくれたかと」
「じゃあそこに……とりあえず、用意しないと。……それと舞、今日はこれじゃ駄目だな」
「……しょうがない。真琴のけがの方が先」
「分かった。じゃあ今日はもう解散で……とりあえず、動物病院まで来てくれるやつだけ、手を挙げてくれ。……困ったな、全員か。こりゃ自動車組と電車組に振り分けないと……」



 あれから一時間ほど後。
 秋子が言っていた例の動物病院に、一同の姿を見出すことが出来る。
 唐突な事故の発生にあわだたしく妖狐の洞穴を出た祐一と秋子、そして名雪と美汐が、狐姿の真琴を車に乗せてここに急行したのである。
 当初は額からじくじくと血がにじんでいるのを見て獣医もすわ、と思ったらしく、応急処置だけして即CTスキャンとなった。
 しかし心配されるような脳の異常は見当たらず、傷自体も浅かったことから改めて薬を塗り直し、
「よいしょっ、と……さて、これでもう大丈夫ですよ」
 額にガーゼを当て繃帯(ほうたい)を巻いただけで、
縫うこともなくあっさりと治療が終了したのである。
「それじゃ、抗生物質を出しておきますから……今日は家へ帰って、安静にしておいてあげてください」
「え、帰って大丈夫なんですか?」
「ええ。出血が大げさなだけで、傷自体は大したこともありませんから。一週間もしないうちにきれいに治りますよ」
 それを聞いて、治療室に入っていた四人と、後から電車で追いかけて来た待合室のあゆ、舞、佐祐理が一様に安堵の表情を浮かべたのは言うまでもない。
 特に名雪は自分のつまらない粗忽で流血沙汰に追い込んでしまったため、その安堵のほどは他のメンバーの比ではなかった。
 受付で支払いを終え、真琴を浦藻から借りた籐の籠に入れて病院を出ると、あたりは薄暗くなりかけていた。
「……あちゃあ、気がつきませんでしたが、もう五時過ぎてんですね、これ」
「そうですね……今から戻ると、もう真っ暗かも知れませんね」
 三月末で多少日が伸び始めているとはいえ、まだ「夕焼け小焼け」が五時半に鳴っている時期である。
「どうします?……暗い中でがさごそやってると、PTAのパトロールに見とがめられそうなんですが」
 祐一が困ったように盆の窪をかきながら言う。
 実はさっき洞穴から出る時、真琴を入れた籠を出すのに手間取ってしまい、出口の草むらの前で十分近くももたもたしてしまったのだ。
 傍目から見れば、何をしているか分からないだけに不審極まりない光景だったろう。
 それに物見地区は学校が集中していることもあって、日没前から日没直後くらいまで丘の周りでPTAの有志が子供への声かけと警戒に回っている。
 それなのに入るのに十分もかかっているようでは、
自分から見とがめられてくれと言っているようなものである。
 と、その時、秋子が、
「困りましたね……じゃあ、うちで一晩預かりましょうか」
 そう言い出したものである。
「え、ええ?お母さん、そんなことして大丈夫なの?」
「名雪の心配も分かるけど、もうここまで暗くなって来てるとさすがにそれも考えないと……」
「う……」
 秋子の言う通り、こうしている間にも日はどんどん西の地平線へ降下して行っている。
 とどめに、「夕焼け小焼け」のチャイムまで鳴り出した。
「しょうがないよね……これじゃ」
 不承不承ながらそういう名雪に一つうなずくと、秋子は、
「それでもとりあえず、浦藻さんには話を通しておかないと。……ぴろちゃーん、いるかしら?」
 動物病院横の千勝神社の境内へ向けて呼びかける。
 ほどなくしてにゃあ、と声がして、とてとてとぴろが秋子の前に現れた。
 それを見て、秋子はかばんからメモ用紙を取り出し、デスクペンで何やらしたためると、丹念に折ってぴろの首輪に結びつけた。
「これ、浦藻さんにお願いね」
 そう言ってぽん、と尻をたたくと、ぴろは「おまかせあれ」と言うようになう、と鳴いて再び神社の境内へ姿を消した。
 それから十分ほど経っただろうか。
 電車通りの方から、ぴろが首に大きな巻紙を巻きつけて帰って来た。
 一同の前で首を垂れるのを受けて、秋子が巻紙を取り上げる。
 そして、墨で書かれた流麗な和様(日本独特の書法)の文を一読すると、
「許可が出ました。あちらも状況的にやむを得ない、という判断だったようで……。ただ、
神剣を念のため持って行ってくれ、とのことです
 そう言ってぱっと書面を一同の前に開いて見せた。
「それって、結局戻らなきゃいけないってことじゃ……」
「いや、それが……ここに書いてあるんですが、『誰か間違って持ち出したみたいなのでそのままそれを使ってください』ですって」
 次の瞬間、一同の眼が舞に集まったのは言うまでもない。
「……え、私?……待って、ちょっと調べる」
 そう言うと舞は、いつも木刀を入れている竹刀袋の紐を解いた。
 その中から、明らかに刀にしか見えない黒い拵(こしらえ)の柄が見えた時、舞は、
「………」
 ひとしきり無言になると、
「……ごめん、間違えて入れたみたい」
 よそっぽを向いて、申しわけなさそうにぽつりと言った。
「……はあ。まあいいやな、取りに行く手間が省けて」
 どれだけあわてていたんだ、と思わず脱力しながら答える祐一に、舞は、
「……とりあえず、私も行った方がいい?見張り役で」
 そう訊ねて来た。
「うーん、無理して来なくてもいいんじゃないか?ほれ、俺だってあんな修羅場をくぐり抜けたんだ、多少のことならどうにかなるさね」
「でも……」
「まあまあ、心配するなって。それに何だかんだ言って、一番気疲れしてるのお前じゃないか。人の家泊まってまで気を張ってることないだろ」
「……分かった。でも、緊急時は必ず呼んで」
「ああ、そうするよ」
 そう言うと、祐一は舞から神剣を受け取った。
「んじゃ、舞は帰るとして……みんなは、どうする?美汐あたりは来るか?」
「いえ、いいです。……思いがけず里帰りがかなうんですから、水入らずの方がいいでしょう?」
「あ、そういやそうだったな。……うちは、よく人が泊まるもんだから忘れてたよ」
「忘れてたんですか……まあ、祐一さんらしいといえば祐一さんらしいですが」
「あははーっ、それじゃあ一緒に帰りましょうか、舞に美汐ちゃん」
「そうですね……すぐそこですし」
「うぐぅ……ボクも、今日は遠慮するよ」
「じゃ、ここで改めて解散だな。みんな、今日はお疲れさま。また明日な」
 祐一のその言葉とともに、一同はめいめい勝手に帰途につき始めた。
「さて……じゃあ、俺たちも帰りましょうか」
 そう言って、祐一が真琴を入れた籠を後ろの座席に乗せる。
「名雪、真琴がこけないように頼むぜ。けが人だしな」
「うん、分かったよ」
 とっぷりと暮れた中を、尾燈の赤色をたなびかせながら電車が走り去って行った。


 その晩、水瀬家はちょっとしたお祭り騒ぎとなった。
 偶然とはいえ、一度はもう戻らないと思っていた家族、そして恋人の真琴が帰って来たのだから、その喜びが大きいのはある意味当然とも言える。
 それにこのところ、殺生石討伐の影響でいろんな事件に遭い、鍛錬の日々を続けていて気の休まる時がなかったので余計だった。
 真琴もそれは一緒だったらしく、家に入る時もちょっと遠慮がちに片足をかけて振り返った後、
「いいわよ、そのまま上がって」
 秋子の一言とともに一気に廊下をぱたぱたと走り、居間のソファーに陣取った。
「はしゃいでるなあ、あいつ」
「それはそうでしょう、久しぶりの実家ですもの」
「……まあ、そうだよね」
 その後も、真琴は喜び一色だった。ぴろとじゃれ合ったり、漫画雑誌を読もうとしてバランスを崩しそうになったり、祐一を尻尾でからかったり……。
 秋子もいつもより豪華な夕食と餌で家族の帰還を祝った。ただし猫の餌をベースに作ってしまったため、真琴が困ったような顔をしていたが。
「まあ、リスクがないわけじゃないが……たまにはこれくらいのことがなきゃやってらんないよなあ」
 そんな冷静なことを言いながら、一番真琴にかまけていたのが祐一である。
 まずやろうとしたのがのみ取りである。犬猫が好きなくせにあまり知識のない祐一は、猫ののみ取りブラシで真琴の背中をすいてしまい、逃げられてしまった。
「あうーっ!猫用とは違うのだよ、猫用とは!」
 しゃべることが出来たならまずそう言っているだろうが、言うことが出来ないものだから逃げ回るだけ。
 おかげで秋子が猫用と犬用のブラシの違いを説明するまで、家中を追いかけっこする羽目になってしまった。
 また本も祐一が読ませてやった。ただ、以前のような読み聞かせではなく、手で頁を押さえてやる程度だが。
 だがここでもいたずら心がはたらいて、ぴこぴこ揺れてる耳やぱたんぱたんと振られている尻尾をいじり回す。
 しまいには片手で本を持ったまま尻尾に頬ずりし、ぺしいん、と顔をはたかれてしまう始末。
 ちなみにこの時のことから、後に一件が全て片づいた後、真琴は、
「祐一って……絶対狐好きよぅ、あれ。せっかくだから、あたしも家では普段耳と尻尾出してようかな」
 と言ったとか言わないとか。
 まあ、それはともかく……。
 食事の後の風呂でも、一騒動あった。
 この時、たまたま祐一が名雪の次に入ったのであるが、
「真琴、一緒に入ろうぜ」
 そう言い出したのである。
 しかし姿は狐でも、中身は立派な年頃の女の子である。
 言われた途端、人間の目から見ても分かるほどぽかん、とした挙句、かあああっ、と耳の中まで真っ赤になって、そのまま硬直してしまったのである。
 さすがにこの反応には、祐一も恥ずかしがっているのだと気づいた。
「あっ……そうか」
 そう言ったきり困ってしまっていると、秋子が、
「あらあら、祐一さん……今の真琴には頭に傷がありますし、無理してお風呂に入れない方がいいですよ。明日の朝、洞穴へ帰った後に湯浴みをすればいいことですし」
 そう言ってとりなす。
「ううむ……道理ではありますね。せっかく夫婦風呂としゃれ込もうと思ったのに」
 その一言で、真琴がぶっ、と吹き出し、横にぽてん、と倒れてしまった。恥ずかしさが限界に達したらしい。
「ああっ、しまった!おーい、真琴、しっかりしろー」
「まったくもう、祐一さん……。あまりからかわないでくださいね」
 その後、傷を心配した祐一が繃帯を開き、ガーゼを替えて巻き直す展開となったのであった。
 と、その時、
「……ゆーいちー」
 いつも通り猫柄のどてらを着た名雪が、眼を糸にして半分寝ながらやって来た。
「ん?どうしたんだ、名雪?」
「……何か手伝えることないかおー」
 半寝状態特有の妙ちきりんな言葉遣いでそう言う名雪に、祐一は、
「いや、いいよ。あとは止めれば、終わりだ」
 名雪の方を見もせずに答えた。
 それを聞いて名雪は少し黙っていたが、ややあって、
「……分かったおー……おやすみだおー」
 そう言うと、とたん、とたん、と階段を上がって行った。
「やれやれ……いつも思うけど、あいつの『寝ながら階段』はもはや神業だよな」
 見ると、真琴も前足でまるで肩をすくめるような格好をしている。
「ほんとよぅ」
 とでも言いたげだ。
「じゃ、真琴。せっかくだし、俺の部屋で寝ようぜ。それくらいなら恥ずかしくないだろ?」
 そう言う祐一に、真琴はちょっとためらうような素振りを見せたが、すぐにしっぽを振って寄って来た。
 さらにそこにぴろも加わり、祐一の部屋は一気に大所帯となった。
 その後も、真琴が本を読むのにつき合ったり、ぴろにブラシをかけてやったり、真琴に偶然ベッドの下に隠してあった成人向け写真集を見つけられて思い切り白い眼で見られたりと、いろいろてんやわんやの状態であった。
 その日、祐一たちが寝ついたのはいつもより遅い、一時頃のことであった。


「………!」
 名雪は、声にならない叫びを上げ、ばねに弾かれたように跳ね起きた。
 一日十二時間睡眠、朝でも満足に起きていないことが多い彼女が、途中で目覚めるなどまずあることではない。
 しかも悪夢でも見たのか、うっすらとまなじりに涙がにじんでいる。
 彼女はベッドの上で半身を起こしたまま、しばらく呆然としていたが、やがてくしゅくしゅと涙をふき、足許の巨大な時計を見た。
 ――三時十八分。
 まだ日の出まで、二時間近くもある立派な真夜中であった。
 ここで普通ならすぐに寝てしまうところなのだろうが、この時の名雪は違った。
 床に入ったものの、眼を見開いたままで寝ようとしない。いや、眠れないのだ。
 祐一あたりが聞いたなら、
「名雪が眠れないなんて、天変地異の前触れだな」
 などと茶化されそうであるが、今の彼女はそんな茶化しがためらわれる雰囲気だった。
(祐一……真琴ばかりかまって)
 暗闇の中、名雪はそれを考えていた。
 確かに、今日の祐一は帰って来てからというもの、真琴にかかりっきりの状態だった。
 名雪もその気持ちはよく分かる。自分の愛しい人が思いがけず里帰りをしたのだから、嬉しくて当然だろう。
 だが、彼女は正直なところ、それを複雑な気分で眺めていた。
(気持ちは分かるけど……何だかすっきりしないよ)
 このことである。
 名雪は、別に祐一と真琴の仲を認めていないわけではない。そうならば、今の一件に快く参加などしていないだろう。
 第一彼女は、祐一と真琴が互いに惹かれ合い、祐一が真琴の幼児退行後でも愛情を注いでいたのを眼にしている。
 それを見て二人の愛を認めたからこそ、真琴が消えたあの日、「結婚式」に名雪は「参列」したのである。
 だから、今さら二人の仲をどうこう言う気はさらさらないのであるが……。
(それでも、真琴と祐一が仲よくしてると、何だか胸がもやもやするんだよ……)
 そんな思いをぬぐい去れずにいたのだ。
 そのせいか、洞穴でも二人が甘い雰囲気になると、ついつい横合いから無粋にくちばしをはさんでしまう。
 自分でも嫌なことをするものだと思うが、
(どうしてもしないではいられない気分になる)
 のである。
 幸いなのは、二人がこのことを全く気にしていないことだが、それはそれで何か面白くない。
 そして名雪自身も、この気持ちが一体どこから来ているのかぴんと来ておらず、それもまたすっきりとしない原因となっている。
 今の名雪は、のどのあちこちに魚の小骨が何本も刺さっているかのような、ひどく精神的に気持ちの悪い状態であった。
(どうしたらいいんだろう……どうしたら……)
 そう自問しつつ、眼を閉じようとした時だった。
 名雪の眼の前の闇が、急にゆらりと動いた。
「だ、誰……!?」
 突然のことに一気に瞠目する名雪の視線の先で、その闇がちろりと笑う。
 それきり、名雪は気を失った。



 次の日の朝。
 祐一は、いつも通り名雪を起こしに行くために向かい側の部屋の扉をたたいた。
「おーい、名雪、起きろーっ」
 もっとも呼びかけても起きるものではないので、すぐにがちゃりと扉を開いて起こしにかかろうとする。
 いつもならば、かえるのぬいぐるみ・けろぴーを抱きしめて寝息を立てているのを起こすところなのだが、この日はいつもと違った。
「……あれ?名雪のやつ、どこ行ったんだ?」
 そう、当の名雪の姿がベッドの上にないのだ。
「おかしいな……あいつが俺より早いなんて」
 人よりも睡眠量が異常に多い名雪は、祐一がちょっと揺すったくらいでは起きない。
 それどころか、起き上がってもまだ糸目の状態で半分寝ているという猛者なのである。
 ひとしきり首をひねった後、下にでもいるのかと部屋を出て、階段を下りていく真琴とぴろの後を追おうとした時だ。
 ぴとり、と何やら冷たいものが、自分の首筋に当てられるのに気づいた。
 そして、ただならぬ雰囲気に彼が横を向こうとした時だ。
「………!!」
 祐一の躰が一瞬にして硬直した。
 何とそこには、どこから持ち出したのか、のこぎりの側面を彼の首に押しつけている名雪の姿があったものである。
「……な、名雪……!?」
 あまりの異様な状況に、祐一がやっとそれだけ言うと、名雪は、
「ふふふ……祐一ぃ。眼は、覚めた?」
 普段の彼女からは考えられないほどの低い声で、楽しげにそう言った。
「あ、ああ。だが、こ、こりゃ、ちと冗談にしちゃ過激すぎないか……」
 気圧(けお)されながらも、名雪を刺激しないように無難な言葉で答える祐一に、名雪はぬたりと笑うと、
「冗談なんかじゃないよ……祐一の首、もらうつもりでいるんだから」
 とんでもないことを口にした。
 そして名雪がのこぎりの歯を立てようとした瞬間、祐一がとっさに動いた。
 どおん、と斜め後ろへ名雪を突き飛ばしてのこぎりの歯を頸動脈から離すと、倒れた名雪が手放したのこぎりを蹴り飛ばす。
 それを見て、名雪が、
「………!」
 ぎょろりと祐一を睨めつけるのに、祐一はさっき以上の生命の危険を感じた。
(こいつ、狂ってやがる……)
 このことである。
 これ以上ここに留まるのは危ないと判断した祐一は、大急ぎで階段を駆け下り、階下の秋子たちに危急を報せに走った。
 だが、半分ほど階段を下りかけた時である。
「ふふふ……先になんて、行かせないよ」
 名雪の声が背後から響いたかと思うと、怪鳥(けちょう)のごとき雄叫びが上がり、そのまま階段の先の廊下に飛び下りたものである。
「なっ……!?」
 屋内で人の頭を飛び越すという猿(ましら)じみた荒技に、祐一はしばし硬直した。
 その硬直を解いたのが、肩に走った鋭い痛みだった。
 見れば、左肩に血がにじんでいる。必死で気づかなかったが、さっき名雪を突き飛ばした時にのこぎりの歯で痛めたらしい。
「くそ……っ、何がどうなってやがんだ」
 ともかく、このままでは秋子たちの命が危ない。厨房で庖丁でも持たれた日にはみな殺し確実であろう。
 が、次の瞬間、筋に走る痛みをこらえながら階下に歩みを進め始めた祐一の耳を、魂消るような狐の鳴き声がつんざいた。
「ま、真琴!!」
 肩を押さえながら廊下を必死で走り、居間に飛び込むと、酸鼻を極めた光景が眼に飛び込んで来た。
 真琴が、名雪の持った庖丁で腹をつんざかれ、そのまま名雪の眼の前にぶら下げられていたのである。
「しょせん畜生なんてこんなもんだよ。人間様の前にはね」
 驕慢な口調で嘲るように言うと、名雪は、
「生意気なんだよ……人間でもないくせに!!」
 一気に真琴の躰を床にたたきつけた。
 それとともにべしゃりと音がして、腹に開いた穴からだらだらと血を流し、真琴が床に横たわる。
「こ、この、名雪!!やめろ、何してるんだ!!」
 思わず弾かれたように祐一が名雪に追いすがるが、
「邪魔しないでよ!!」
 すさまじい勢いで庖丁を振るわれ、その切っ先で鼻を切り飛ばされた。
「ぐわあっ……」
 顔の真ん中に走った猛烈な痛みに、祐一は思わずその場へひざを突いた。
 いや、痛いなどというものではない。熱い。恐らく、鼻梁がかなり深く切れているのだろう。
 その間にも、名雪は無抵抗な真琴に庖丁を振るい続ける。
「このっ……このっ……!!七年間待ったのはわたしも一緒だけど、思いの丈が違うんだよ、思いの丈が!!」
 腹に開いた穴に、執拗に庖丁を刺し、憎さをたたきつけるように臓腑をえぐり出す。
「わたしと祐一は幼なじみ、あんたはただのぽっと出の畜生!!本来なら、わたしの思いがかなって当然のはずなのに……」
 庖丁の刃が、一気に真琴の尻尾を切り飛ばし、後ろ脚の肉を切り裂く。
「当然のはずなのに、横取り、横取りして……憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い!!」
 だんっ、と音がするほどの勢いで庖丁が真琴の胴を切り刻み、ついには首までも刎(は)ね飛ばした。
 その兇行を、祐一は鼻からのおびただしい出血のために止めることもならず、最後まで許してしまった。
「真琴ーっ!!」
「叫んだって無駄だよ……もう今は動かないもん。えいっ!!」
 そう言うと、名雪はずたずたになった真琴の屍(かばね)を思いきり蹴りつけた。
 臓物が空を舞い、黄金色の毛並みが空中で四散する。
「真琴、真琴、真琴ーっ!!」
 あまりのことに、祐一はもはや叫ぶしか出来ない。
「……さて」
 しかし、名雪はそんな祐一を嘲笑うかのような狂気に満ちた笑みを浮かべると、
「次は、祐一の番だよ」
 柄まで朱に染まった庖丁を祐一に向けて来た。
「や、やめろ、名雪……」
 もはやそれくらいしか言うことも出来ず、厨房の方へ逃げ込む。
 が、その足に何かが触れた。
「あ、秋子さん!!」
 そこに倒れていたのは、腹と胸を刺されて絶命しかかった秋子の姿だった。
「お、お前、親をこんな目に……」
 怒りと恐慌の中でやっとそれだけ言う祐一に、名雪は、
「ふん、知らないよ。邪魔したから刺しただけだもん」
 今まで親子寄り添って健気に生きて来た、その当事者とは思えないほど冷然と言い放った。
「………!!こ、こいつ……っ!!」
 その傲岸不遜な態度に痛みも忘れて激昂した祐一が名雪に飛びかかるが、
「えいっ」
 思い切り左肩をえぐられてしまった。
「ふふふふ、どう、祐一?痛いでしょ……」
 そう言って名雪はまたしてもぬたり、と愉しげに笑う。
 そして血の海に膝を突いている祐一に視線を合わせると、
「でもね、この痛みを受けるのは当然のことなんだよ」
 床に庖丁をどすりと突き立て、にやにやと笑いながらそう言い出したものだ。
「な……んだと?」
 唐突な名雪の言葉に祐一が反問すると、名雪は、
「ああ、憶えてないし分かってもいないんだ。分かってはいたけど、祐一って本当に馬鹿だね」
 口の端を歪めて嘲るように言う。
「分かってる?さっきも言ったけど、わたしは七年も待ったんだよ?毎年毎年、祐一が来るか来ないか、焦がれて焦がれて……」
 そう言いながら、名雪は再び庖丁を引き抜き、ぺちぺちと祐一の頬をたたく。
「待たせる方は気楽でいいよね。だけどさ、
待たされる側にとってはその苦しさ、並のものじゃないんだよ」
「ぐ……」
「それにさ、それにさ……あの時、祐一を見送りに行った時……」
 そこまで言いさすと、名雪は急に嚇怒(かくど)の表情となり、
「せっかくこの南森の想い出にと、わたしが作って持って行った雪うさぎ、無下に壊してくれたじゃない!!それにきちんとお別れしたいからって、次の日も会おうって言ったのに、待てども待てども来もしないで!!どれだけあれで、わたしが傷ついたと思う!?」
 どうん、と庖丁を再び床に突き立てながら、大音声で怒鳴りつけた。
「うっ……」
 そこまで言われて、そういえば、と祐一は思った。
 名雪の語ったことは事実である。七年前、南森を去る日、名雪は雪うさぎを作ってきてくれた。
 特に珍しいものでもないのだが、自信作だったのだろう。
いかにも地方の小学生らしい、かわいらしいはなむけだった。
 だが、祐一にはそのはなむけを素直に受けることが出来なかった。
 直前、あゆが木から墜落して流血沙汰になるという、幼心に深い傷を負う出来事を体験していた祐一は、雪がひどく怖くなってしまった。
 その塊を眼の前に出されたのである。反射的に、手が雪うさぎを打ち壊してしまっていた。
 しかし名雪は健気にも、自分が祐一のトラウマを刺戟してしまったことを謝ると、きちんとした別れがしたいから次の日も会いたいと懇願した。
 そんな名雪の願いも、一刻も早く南森を離れてこの街を忘れてしまいたいと思いつめていた祐一の心には届かず、結局反故にされてしまったのである。
 今から考えればとんでもなく悪いことをしたと思うし、落ち着いてからわびの一つも入れなかったのもまずかったと思う。
 だが、だからと言って、こんな兇行をはたらいていい道理はないはずである。
「な、名雪……それにはわけがあるんだ。だから、こんなことは……」
 そう言って事情を説明しようとするが、
「言いわけするつもり?男らしくないよ……痛いのは一瞬だけなんだから、おとなしく死ぬんだよ」
 名雪は庖丁を床から引き抜き、その棟をうっとりとした表情でなめた。
「名雪、考え直すんだ、これ以上罪を重ねるんじゃない!」
 もはやそんなことを言っても狂い果てた名雪に通じないのは明白だったが、祐一自身も追い込まれてそれしか言うことが出来なかった。
「知らないよ。一人殺そうが二人殺そうが一緒だもん。えい」
 そう言うと、名雪は祐一の顔面めがけて庖丁を突き出して来た。
 間一髪で避けたが、頬に血が伝う。
(これまでか……)
 祐一が、そう思った時だ。
 血で滑ったのか、名雪が庖丁を取り落とした。
(今だ!!)
 祐一はその一瞬を衝いて、一気に廊下へ逃げ出した。
 いつもならば名雪を取り押さえにかかるところだが、名雪をどうこうするよりも本能的に自分が兇刃から逃げる方が先と判断したのである。
 が、玄関に向けて走っていたその足が、急に止まった。
 いつの間に入ったのか、そこには舞がいた。
 しかも、剣を構えて、である。
「ま、舞……お前まで、狂ったか!!」
 絶望的な声で悲鳴を上げる祐一に、舞は何も言わずに剣を一閃させ、祐一を袈裟懸けに斬り倒した。
(こ、こんなところで……死ぬのか……)
 その剣戟に、祐一が本格的に死を予感した瞬間である。
 光とともに何ものかが躰から抜けるような感覚がして、祐一は意識を保ったまま廊下に伏した。
「……え?」
 その奇妙な感覚に、思わず顔を上げる。
 そこで祐一は、奇妙なことに気づいた。
 あれだけ躰中斬りつけられて、血でどろどろになっていたはずの寝間着が何事もなかったようにまっさらになっている。
 さらにあれだけ生臭く漂っていた血のにおいすら、かけらも感じないではないか……。
 あまりに不可解な展開に、祐一がきょとんとして周りを見回していると、
「……祐一、ぴろの報せで、助けに来た」
 舞がそこでやっと言葉を発した。
「うぐぅ、とりあえず祐一君は大丈夫だね……浦藻さんの言う通りだったよ」
 見れば、ふわふわとあゆも頭上に浮いている。
「おい、これはどういう……」
 その二人の反応に思わず祐一が訊ねると、舞は、
「……手先の呪い。今まであったことは、みんなそいつが見せた幻覚」
 簡潔にきっぱりと答えた。
「て、手先のやつが見せた幻覚だって……!?じゃあ、名雪が狂ってるのは……」
「……手先の本体が憑いてるせい。早く祓わないと」
 そう言うと、舞は祐一を立たせて、
「……剣はどこ?」
 そう訊ねた。
「あ、俺の部屋だ。急いで行って来る」
「……早く。先に居間へ行ってるから」
 舞に促され、大急ぎで神剣を二階へ取りに向かう。
 そして、戻って来て居間に入った時、そこには何とも奇妙な空間が広がっていた。
 さっきまで阿鼻叫喚の地獄絵図だった居間は、全く何もなかったようにいつもの顔を見せている。
 そして、その奥で光とともに秋子と真琴が息を吹き返すのが見えた。
 どちらもさっきまでの屍体同然、肉片同然の姿とは打って変わって、傷一つ負っていない。
 だが名雪だけは、庖丁を持つような手つきをして硬直したまま動かない。
 そのすきをぬって、舞が、
「……祐一、二人を安全なところへ逃がして」
 秋子と真琴を祐一の方へ引き渡した。
「祐一さん、これは……」
「……手先が名雪に憑いてるんです。ここは俺たちが何とかしますから、二人はしばし避難しててください」
「分かりました。真琴、行きましょう」
 そう言って玄関を出るのを見届けると、祐一は神剣を抜いた。
 名雪は、相変わらず硬直している。
「なぜだ?何で何もして来ないんだ?」
「……恐らく術を破られて、困惑してるんだと思う。校舎の時のやつと違って、それほど知能の高いやつじゃなさそう」
「ああ、それっぽいな。偽久瀬みたいに脳味噌のあるやつだったら、ここで開き直って講釈の一つも垂れておかしくないから」
「……うん」
「こんなやつを出して来るたあ……やっぱり虎の子の偽久瀬を斃(たお)されたせいであせってんのか、やっこさん?」
 祐一がそう言った時だ。名雪が手の中に光の剣を出現させたかと思うと、
「があっ……」
 けだものじみた咆吼を上げながら二人に襲いかかって来たものである。
「くっ」
 不意を衝かれた格好になったものの、舞はうまいこと剣ではじき返す。
「……太刀筋も何もあったものじゃない。完全にやけくそ」
「だが、けだものは手負いが一番怖いって言うぞ。
こいつ、やけくそのくせに妙にすきがねえし……
「言えてる……ふんっ!!」
 祐一と会話しながら、舞は再び名雪の剣をはね返す。
 確かに、やけくそで振るっているとはいえ、剣を使うのだからそれなりに腕に覚えはあるようだ。
 とにかく一太刀でも負わせられれば、相手の力を殺ぐことが可能なのだが、
「……鋭っ!!」
「ぐおあっ!!」
「……くっ」
 こっちの剣先が及ぶ前にすべて弾いてしまう。
「舞!!廊下だ、廊下に出るしかねえ!!」
「……分かってる!!」
 数度舞も祐一も互いに剣を振るったが、全て無駄に終わったのを見て、祐一が廊下への誘い出しを叫ぶ。
 そして、名雪がまるで屍鬼(ゾンビ)のごとき死んだ眼つきで歩いて来るのを、剣を構えて待ち受ける。
「ぐおわぁっ!!」
 もはや人間の出す声の限界を超えた声とともに、舞に襲いかかり、
「……く、くうっ」
 今度は行けると思ったらしく、鍔競りに持ち込む。
 舞が何とか弾き返そうとするが、相当な怪力らしく段々と腰が砕け始めた。
 祐一が手を出そうにも、廊下が狭すぎて下手に剣を振るうと舞まで被害を受けてしまう。
 万事休す、そう思った時である。
 ふと、刀の鞘に手が触れた。
 その時感じた手触りに、祐一の中にある予感が走った。
(小柄(こづか)か……?)
 このことである。
 小柄とは、武士が差していた大小の刀のうち大刀の鞘についている小さな刀で、出先で何かものを切ったりする時に使う、今風に言えばカッターナイフのようなものである。
 ただ、刀自体が武器であるため小柄も武器として使用することが可能で、よく時代劇では手裏剣としても使用されることがあるのだ。
(こいつを打ち込めば……!!)
 はっきり言って命中する自信はないが、迷っている暇はない。
 鍔競りが限界に達しそうになったところで、祐一は素早く小柄を引き抜くと、がら空きの名雪の左肩へ向けて思い切り投擲(とうてき)した。
 次の瞬間、ぐさあっ、という骨を断つような音を立て、小柄は見事に名雪の首の根元に命中していた。
 ぱあっ、と血潮の代わりに光が吹き出し、
「おおうっ、あうっ……」
 それまで舞を圧倒していた名雪の剣が緩む。
 名雪は小柄を引き抜こうと四苦八苦するが、雷神である
味耜高彦根命(あじすきたかひこねのみこと)の加護を受けた剣の力に打たれ、電光に手を焼くばかりである。
 そして、まるで正面ががら空きになった、その時である。
「……鋭っ!!」
 だんっ、という踏み切り音とともに、舞が一気に名雪へ追いすがり、猛然たる突きを腹へぶち込んだ。
「………!!」
 もはや、名雪は声すらもない。
 そして、剣を引き抜くとともに突きの入った場所から大量の光が噴き出したと思うと、それまで光を失っていた名雪の眼に光が戻り、そのままぱたりと気絶した。
「かなり過激な祓い方だったが……これで大丈夫なのか?」
「一応、どんな使い方をしても祓(はらえ)にはなるから。それに今のタイミングだと、突きを入れるよりしかたなかった。それより、小柄……助かった」
「ああ、あれか。よかったぜ、命中してくれて……」
「それより、早く名雪を部屋に」
「分かった。とりあえず舞は、秋子さんたちを呼んで来てくれ」
 そう言うと、祐一は気を失った名雪を背負って二階へ上っていった。


 名雪が眼を覚ましたのは、それから三時間も後のことであった。
 あまりの眠りの深さに、何か悪い影響でも残ったのではないかと一時心配が広がったため、眼が覚めた時の一同の安堵はひとしおであった。
 だが当の名雪は、周囲を見回して上体を起こした後、
「わ、わたし……」
 そう言ったきり、青い顔をして絶句してしまった。
 どうやら先日校舎で出た偽久瀬と違い、知能の低い手先であったために、術に操られていた時の記憶が全部残ってしまっているようであった。
 それでも何とか硬直状態を脱した名雪は、説明が必要と判断したのか、ぽつりぽつりと、今回の事件の原因となった一連のできごとと自分の想いを語り始めた。
 従兄弟同士と知りながらも、祐一を好きになったこと。
 祐一が七年前の冬、東京へ帰る日に上手くできたからと持って行った雪うさぎを壊されたこと。
 そして、お別れを言いたいからと次の日会ってくれるように頼んだのに、待ちぼうけを食らわされてひどく傷ついたこと。
 七年間、祐一の来南を待ちわびていたこと。それなのに何の連絡もないことを密かに面白くなく思って、七年前の仕返しの意味も込めてわざと待ち合わせに遅れて行ったこと。
 一つ屋根の下で暮らすことになって、これでようやく想いが叶うと思っていたこと。それを真琴に横取りされて、「しかたない」と思いつつも嫉妬の念が払拭出来なかったこと。
 その祐一が何一つ、自分を傷つけたことを思い出さずにいたのを、恨みに思っていたこと。そのくせ真琴のことになると眼の色を変えるのに、さらに嫉妬を膨れ上がらせていたこと……。
 のどの底から絞り出すように、彼女は、今まで誰にも押し隠して来た自分の心の闇をつぶさに語った。
「ごめんね……ごめんね……祐一、真琴。わたし、嫌な子だよね……過去のこと引きずって、嫉妬して、挙句の果てに化け物に憑かれて嫌な目に遭わせて……本当に嫌な子だよね……」
 自虐の言葉を繰り返す名雪に、祐一は、
「気にするな。俺だって、悪かったんだから」
 そう言ってなだめようとするが、
「ううん、祐一があんなことしたのは、あゆちゃんの事件を目にしたせいだもん。それを知ろうともせずに一方的に恨んだんだから、私が悪いよ……悪いに決まってるよ。嫌な子だよ……本当に、嫌な子だよ……」
 全く聞く耳を持たず、首を振って自分を責め立てる。
 完全に自己嫌悪の渦に入ってしまった名雪に、祐一は、
(まいった……浦藻さんがいれば、この状態でも何とかしてくれるんだろうが)
 妖狐の洞穴を見つけたあの日、偶然あゆに出会った祐一は、過去の記憶を思い出して狂乱状態になり、今の名雪と同じ状態になった。
 あの時、神意をうかがう盟神探湯(くかたち)の儀式によって、浦藻が自分に喝を入れてくれたのだが……。
 しかし、ここではそんなことは出来ないし、祐一自身も今のパニック状態の名雪をなだめるだけの自信がなかった。
 と、その時だ。
「……一人にして」
 名雪が、急に顔を伏せてそう言い出した。
「でも……」
「いいから、一人にして」
 頑強に言い張る名雪に、祐一は秋子の方を思わず向いたが、秋子は、
「……今は、言う通りにしてあげてください」
 静かに首を振ってそう言った。
 それにうなずくと、祐一は一同とともに部屋を出た。
 そして、居間へと戻ったものの、祐一は全く落ち着かなかった。
(どうも悪い予感がしてならない……)
 このことである。
 彼にそう思わせたのは、あの時の名雪の眼だった。何か覚悟を決めたような、哀切な色をたたえた目つきは、今までに見たことのないものであった。
 そう思った瞬間、祐一は席を立っていた。
「……祐一さん?」
「いえ、ちょっと厠(かわや)へ」
 そうごまかすと、廊下を厠の方へ行った振りをして忍び足で階段を上り、名雪の部屋のすぐ横の壁に立って耳を澄ませた。
 いつの間に上って来たのか、真琴も一緒に足許にいる。
 部屋の中からは、ずっと嗚咽だけが聞こえていたが、ややあって、
「……ごめんね、祐一、真琴、お母さん、みんな。わたし、もう笑えないよ……いつもみたいに笑って、みんなに顔向け出来ないよ……」
 涙混じりの声が聞こえたかと思うと、きりきりとねじを切り上げるような音が響いた。
 その音が何か悟った瞬間、祐一は一気に部屋の扉を開け放って中へ飛び込んだ。
 その眼に飛び込んで来たのは、大きなカッターナイフをねじり出し、左手の手首に当てようとしている名雪の姿だった。
「やめろ!何してやがんだ!!」
 祐一はそう叫ぶと、弓弦(ゆんづる)に弾かれたように一気に名雪へ追いすがり、その手をひねり上げた。
「や、やめて!!止めないで、祐一……!!」
 そう叫んで抵抗する名雪を、祐一は、
「そうは行くか!!」
 右手首に手刀を入れて強制的にカッターナイフを取り落とさせる。
「……!!ゆ、祐一、止めないで!!私は、私は……私みたいに汚い、嫌な子は死ぬのが一番なんだよ!!」
 なおもそう言ってカッターナイフを手に取ろうと暴れる名雪を、祐一は、
「この……馬鹿野郎がぁっ!!」
 真正面から思い切り殴りつけた。
「………!!」
「早まったことすんじゃねえっ!!お前が、お前が死んで何になるってんだ!!……みんなを悲しませるだけじゃねえか!!」
「でも、でもっ……」
「デモもストも遵法闘争もありゃしねえ!!ここで自分に負けてどうすんだよ!!それにだ……」
 そこで祐一は一言おいて息を吸うと、
「それに、俺も、みんなもお前を嫌なやつだなんて思っちゃいねえ!!」
「……そ、そんな……だって、だってわたしは」
「却下だ!!」
「う……」
「誰だって、よかれと思ってやったことを無下にされりゃ腹は立つ!待ってるのに連絡もよこさなけりゃ恨み言も言いたくなる!想い人が他人とくっつきゃどうしたって悔しくなる!!種をまいた
俺が言えた筋合じゃないかも知れないがな、もしお前と同じ立場だったら、俺だって同じことをしてただろうさ!」
 そこで祐一は、詰(きっ)と名雪の眼を見すえると、
「それが、人間ってやつだろう!違うか!?汚いところ、嫌なところあってこそ、みんな人間なんだよ!!」
 言い聞かせるようにそう言った。
「ゆ……祐一……いいの?本当にいいの?わたし……」
「くどい!いいと言ってるじゃねえか」
「祐一……」
「なあ、名雪。俺には、過去の過ちをわびることでしか、お前の心の傷をどうすることも出来ない。真琴と恋人同士である以上、お前の気持ちに応えてやることも出来ない」
「………」
「だが、だがな……みんなと一緒に、お前のそばにいてやることは出来る」
「………!」
「だから……こんな、こんな悲しいことは二度としないでくれ。お願いだ」
「………」
 懇願するように言う祐一に、名雪は言葉を失っていた。
 と、そこに、急に何かが割り込んで来た。
 見れば、大判のメモ帳とペンをくわえた真琴だった。
「………?」
 二人と、騒ぎを聞きつけて下から集まって来た一同が訝しげに見ていると、真琴は名雪の眼の前に座った。
 そして、両前脚でペンを持って文字を書き始めたのである。
 動物が書いているとは思えないほどの早さで文字を書き上げ、名雪に示してみせる。
〈名雪、祐一の言う通り。自殺なんてことはやめて〉
 そこには、金釘ながらもそうはっきりと書かれていた。
「真琴……いいの?わたし、真琴のこと妬んだんだよ?妬んで、ひどい目に遭わせたんだよ?」
 そう言うと真琴はぷるぷると首を振り、
〈嫌だと思わなかったって言うならうそだけど、今はうれしい〉
 意外な言葉を返して来た。
「うれしい……どうして?」
〈操られた結果とはいえ、名雪が本音でぶつかって来てくれたから〉
「そんな……」
 名雪は、その答えに驚きを隠せなかった。自分の妬みから出たことを、
「好意的にとってもらえるとは思えなかった……」
 からである。
〈途中で名雪の大切な人をうばったあたしに、怒るのは当然のこと〉
「真琴……」
〈祐一じゃないけど、あたしだって名雪の立場なら分からないよ〉
〈きっと性格きつい分だけねちこく根に持ってると思うし、すぐに形にしてると思う〉
〈それに比べたら名雪……すごいよ。我慢出来たんだもん〉
「……そんなこと、ないよ」
〈あるよ。ただ、それを
自覚して……いや、自覚してても認める機会がなかっただけ〉
「………」
〈人間、みんなそういうことってあるよ。きっと、あたしだって〉
〈でも、今回のことで一気にそれが出来たんだから、結果オーライだと思うよ〉
「………」
〈だからさ、自殺するなんて言わないで、ありのままの自分を受け容れようよ〉
〈そして……あたしが言うことかどうか分からないけど〉
〈そんな嫉妬や妬みなんて、過去のものにしちゃえ〉
〈負けないで、名雪〉
 一生懸命に、しかしていねいに文字を書く真琴に、名雪は、
「真琴……そして祐一……」
 ゆっくりと二人を抱き寄せると、
「……ありがとう、二人とも、ありがとう……」
 ぎゅっ、と熱く抱擁し、涙に濡れながらそう言った。
 その名雪の嗚咽を聞きながら、祐一は彼女の髪をかいなでていたが、ややあって、ふと顔を上げると、
(殺生石め……一度ならず二度までも心の闇につけ入りゃあがって……)
 厳しい眼で窓の外を睨めつけ、
ぎりっ、と歯を軋ませ、握られた右手の拳をぎりぎりと震わせた。
(こいつらを絶対悲しませないためにも、きゃつめの躰、一かけらたりとも残してなるものか……ああ、一かけらたりともな!)
 名雪は、ゆっくりと大地に降り注ぐ春雨の音を聞きながら、祐一の胸の中で泣き濡れたまま、離れようともせぬ。



<つづく>
(平二十・七・二十七)
[平二十・八・四/補訂]
[平二十・八・七/再訂]
[平二十・八・九/三訂]

[あとがき]

 どうもこんにちは、作者の苫澤正樹です。
 さて、「花ざかり」第四回目「黒い影」、いかがだったでしょうか。
 今回の話は、本当に名雪ファンの方には申しわけない、としか言いようのない内容になってしまいました。幻覚とはいえ嫉妬に狂って残虐行為には及ぶ、自己嫌悪で自殺未遂に走る……ある意味でなくとも、前回の舞より名雪には非常につらい思いをさせる結果となりました。もしご不快に思われた方がいらっしゃったら、心よりおわび申し上げます。
 本作の話の流れは、前回までを読まれた方ならばもしかするとお察しかも知れませんが、「ヒロイン一人一人が持つ祐一との間や過去との間の遺恨を解決しながら、『殺生石破壊』という目標に向かって行く」という方向性を持っています。その点、あゆ、舞や佐祐理さんは解決すべき遺恨がかなり大きなものであったこと(特に舞が「Kanon」のヒロイン陣の中でもいろんな意味で大部であることはお話ししましたが)、そして殺生石とからめやすい舞台が用意出来たことが要因となり、かなり長くはなりましたがうまく解決出来ました。
 しかし名雪はどうにも……。いや、彼女にも遺恨が残っているのはゲームをやった方にはよく分かっていると思いますが、「別れ際にせっかく作ってきた雪うさぎを壊された」「七年間も連絡なしで待たされた」「待たされた挙句に想いが届かず別の子を選ばれた」というものですから。これを殺生石にからめて、しかも仲間内の絆を強くさせる方向へ向かう話を書こうと思ったら、普通のやり方では済まないな、と最初から悩んでいまして……。そこで出たのが、心の闇を殺生石の手先に衝かれてしまう、というアイディアだったわけなのですが、それだけでは物語にはならない。さてどうするか……と思った時浮かんだのが、「名雪を操らせて内部からの崩壊を狙う」というものでした。
 しかしそれもどうしたものか、何をすれば内部崩壊に結びつけられるのか、となったのです。実は少々ねたばれなのですが、次回、いよいよ最後のヒロインである栞が登場するのですが、実は彼女も操りで話にからめる予定があるんです。つまり単純な操りだとかぶるわけで……その結果が、これです。鍵となったのは、「名雪は真琴のことをどう思っていたのか?」というところです。これはどこかで議論されていましたが、やはり名雪も女性であるし、七年間も祐一を待ちわびていた以上、ぽっと出のヒロイン(実際にはそうではありませんが名雪の認識ではそうでしょう)に祐一をさらわれることに関しては、どこかで割り切れないものがあってもおかしくないと思うのです。しかも元が穏やかな性格ですから、抑えてしまって表に出すことなどまず有り得ないと。その辺の名雪の想いの機微を元にして、名雪と戻って来た真琴との確執と和解を書いたSSも見たことがあります。そこから、名雪が自分でも分かっていながら認めることが出来ず、認めようとしなかった真琴への嫉妬や祐一への恨みといった心の闇につけ込まれて、兇行に至る……というアイディアに至ったわけです。
 もっとも、それでも虐殺はないのではないか、という意見もあるでしょうが……これには理由があります。文中の祐一のせりふにもありますが、前回出た久瀬に化けていた手先は、ある意味殺生石にとっては大きな手札=虎の子でした。それはそうでしょう、学生に化けて三年もつけ回していたんですから。それがしょっぱなから斃されたとなると、悪役の心理としては相当あせります。そうなれば、長い時間と策を使うことなく、なおかつ直接的・効果的に祐一たちへ精神的・肉体的衝撃を与えられる方法を選びたくなります。ましてやこの作品の敵役は、しょっぱなから祐一を瘴気にあたらせたり、祐一・舞・佐祐理をなぶり殺しにしようとしたような、全く手段を選ばない相手です。それならば、こんな陰険かつえげつない方法で畜生ばたらきをしても、全くおかしくはないと思ったわけです。一応、私としてはそのような考えで名雪にこんな役をやらせてしまったのですが……重ね重ね、名雪ファンや残虐描写の苦手な方にはご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます。
 なお、今回はご覧の通り短めとなっております。というよりも、前回や前々回が世界観の説明や、舞の複雑な過去や祐一との関係を書くのに非常に紙数を割かざるを得なくなり、あまりにも長すぎただけなのですが。以降は、この程度で収まるかと想います。
 それでは、第五回目でお会いいたしましょう。
 なお、今回の設定はこちらです。


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