珍車二題(その2)


・モハ114-823

 次は、同じく小山区の4両編成の上野寄りから2両目についているモハ114-823です。

 

モハ114-823
古河 2000.10.22

車体の形式表記
上野 2000.12.1

 上の写真では見づらいですが、これも800番代という番代でありながら窓が非ユニットサッシという初期車の特徴を持っています。
 これでもうお分かりとは思いますが、この800番代という番代もかなり曲者の部類に入ります。ただし、前の600番代のように改造車というわけではなく、最初から独立した番代として新製されています。
 では、なぜそのように区別して新製が行われたのか。その理由は、この車輌が新製された昭和41年頃の115系を取り巻いていた状況にあります。
 この時期、115系は既に東北・高崎線を制覇し、いよいよその他の線区にも進出しようとしていました。その時、真っ先に標的となったのが山岳路線である中央東線だったのですが、ここで思わぬ問題が発生しました。中央東線のトンネルは古いために高さが低いものが多く、普通のモハでは通れなくなることが分かったのです。そこで、高さの問題を解決するために、モハの屋根では一番高さを必要とするパンタグラフ取付部をわざと低くしてモハを新製し、800番代と称することにしたのです。
 ただし、この車輌がすぐに全部中央東線に入ったわけではありませんでした。昭和42年に後から新製された半分は、中央東線に相方がいなかったためか小山区に入ったのです。しかし、その期間はその年の3月から6月までというごく短い期間で、大半の車輌はすぐに三鷹へと移ってゆきました。
 この時、小山に取り残されてしまった車輌がありました。それが、この823と822だったのです。しかも、後に822は営業運転から退いて訓練車になってしまったため、この823が東北・高崎線の営業車輌では唯一の800番代となってしまった、というわけのです。

 このため、この車輌の外観をよく観察してみると、普通の車輌とは微妙に違った点があります。

 

モハ114-823側面
古河 2000.10.22

 これもまた見づらい写真ですが、手前側の妻面の上部に注目してみてください。上の部分が他の車輌と違って平らになっているのが分かるでしょうか?
 つまり、これが中央東線のトンネル対策のために低くしたもので、膨らみをとって低くするという非常に原始的な手段によっています。妻面から見ると先ほどのように屋根が平らか否かというところでしか見られませんが、横から見ると斜めに段がついているのでよく分かります。

 また、これに伴い、車内のパンタグラフ下にあたる部分の様子もかなり違っています。

車内(車端部)
宇都宮 2000.11.12

 これは外観の写真よりはよく分かるでしょう。やはり外観同様、奥の部分の屋根が丸くなっておらず、平らになっています。実際のところ、高さとしては20mmくらいのものでしょうが、普通丸いものが平らなためにかなり低く見えます。

 また、さっきの外観の写真でもお気づきのこととは思いますが、この車輌は分散式のクーラーを積んでいます。ただし、車内のパンタグラフ下の部分にはクーラーが取りつけられておらず、次のようなファンがついています。

車端部の換気ファン
宇都宮 2000.11.12

 何とも特殊な形状のファンです。それもご丁寧に「JNR」マーク入りで、分散式のクーラーが民営化後取りつけられたものであることを考えると、冷房改造前からあったものなのは明らかです。
 実はこの換気装置、「ファンデリア」と呼ばれる特殊な換気装置で、冷房改造前からごく一部の車輌にしかついていない珍しい代物でした。それが冷房改造時にも屋根の低さに救われて撤去されることもなく、未だに生き残っているわけなのです。
 同じ形式のいる中央東線ではどうなったのかは不明ですが、少なくとも東北・高崎線ではこの車輌でしか見られず、実に珍しいものと言えましょう。
 このように、クハ115-610に負けず劣らずすざまじい車輌ですが、2000年12月の改正以降もとりあえず生き残ったようです。

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