美濃町線の「伝説」
(2000年9月17日現在 その3)


《その3》
馬面電車が存在する

 「馬面電車」……その名の通り、やたら前面が細長い電車のことです。有名な所では「奥の細道の細長き電車」(命名:吉川文夫氏)と言われた花巻電鉄鉛軌道線のデ1形、福島交通軌道線の車輛などがあります。これらの路線は古くからの郊外型路面電車で、原初的な道端軌道が多く存在していたため、恐らくそれとの兼ね合いで細くならざるを得なかったようです。
 実は、道端軌道が多数存在するここ美濃町線にも、この「馬面電車」が存在しているのです。もう「車輛紹介」などをご覧になって来ている方はお察しがつくでしょうが、複電圧車の嚆矢であるモ600形がそれです。
 では、どれくらい細いのかというと……まずは下の写真をご覧下さい。

モ600形前面
モ601 1998.4.26

 ……説明不要ですね。文句なしに長いです。軌道敷きの幅の中に明らかに収まってるんですから、相当のものです。
 ただ、数字で見ると、単純に細いのではないことが分かります。モ600形の最大寸法は幅2236mmですが、これはモ880形と同じ幅ですし、さらにモ870形は幅2230mm、モ590形に至っては2225mmで、モ600形よりも細いのです。
 では、なぜ幅が変わらないのにモ600形だけ細く見えるか、ということを考えると、やはり1つは高さの違いでしょうか。先ほどのモ870形は3515mm(最大)、モ590形は3690mm、そしてモ600形は3926mmで、何と最大40cm以上も高いのです。ここまで差が出れば、比をとってみるまでもなく明らかにモ600形の方が細長くなります。
 そしてもう1つは、前面への車体の絞りこみでしょう。先ほどの数字は飽くまで最大寸法なので、この幅であるのは車両の中ほどになります。元が同じ寸法でも、激しく両側から絞りこまれているモ600形と絞りこみがほとんどなくそのままのモ880形では、印象からして違いますし、実際の寸法も遥かに違います。幅は測ったことがないので分かりませんが、おそらく2000mmは切っているのではないでしょうか。
 あともう1つだけ挙げておくとすれば、前面が3枚窓ということでしょうか。絞りこんで細くした中に、さらに3枚窓を入れているのですから、1枚1枚が細くなってさらに細い印象を助長しているのです。ちなみにこれは花巻電鉄のデ1形と一緒で、前述の吉川氏は「細長い前面で律儀に3枚窓を入れているものだから、余計に細く見える」とおっしゃられております。

 いろいろな要因に支えられ、ユニークな「馬面電車」として昭和45年の登場以来活躍してきたモ600形ですが、前述の通り冷房改造が出来ないために、2000年度いっぱいで廃車が決まっています。
 そんなわけで、美濃町線の個性の一端を担って来た「馬面電車」が、21世紀を前に過去の「伝説」となるか……と思っていたんですが、どうやらそうでもないことが判明しました。
 実は、モ600形の後釜である800形に、「馬面電車」の疑いが出てきたのです。

800形前面
野一色 2000.12.25

 どうでしょうか。この写真の角度だと少し分かりづらいですが、車体の絞り込みが600形並にきついです。もっとも、「車輌紹介」でも述べたとおり低床車で低い部分で380mmしかないため、600形ほど露骨に細くは見えませんが……。ただ、正面から見ると本当に細いです。
 しかし、新型車両にまで「馬面電車」の疑いが出てくるとは……。もしかすると血統ってやつでしょうか(笑)。やはり、美濃町線はあなどれません。

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